北岳

(池山吊尾根)

2006・12・29〜31

3192m

厳冬期の北岳を目指す・・・雪に閉ざされた道は長くつらい。しかし
目の前に姿を現した白い塊は途方もなく大きく、そして美しかった。

1日目・ 奈良田 ⇒ 歩き沢橋 ⇒ 池山小屋 ⇒ 幕営2300地点
2日目・ 幕営地点 ⇒ ボーコン沢の頭 ⇒ 八本歯の頭 ⇒ 吊尾根分岐 ⇒ 北岳山頂 ⇒ 幕営地点
3日目・ 幕営地点 ⇒ 池山小屋 ⇒ 歩き沢橋 ⇒ 奈良田

28日、明日から正月休み。最後の仕事を終えPM9:00に自宅を出発、福井に着くと降り始めた雪で真
っ白でした(>_<) M氏と合流、新雪が降り積もった下道を使い高山経由で松本に入り奈良田に向かいま
す。その間、私は車中でぐっすり寝ていてあまり記憶にありませんが、道は凍結していて運転はかなり大
変だった模様です(^_^;) 奈良田で2時間ほど仮眠、AM7:00出発準備。駐車場には10台ほど車があり
2〜3組のパーティーが出発準備をしていました。トンネルのゲートは2m以上、越えるのが大変、ザックが
重くて苦労しました。ここから延々3時間の車道歩きの始まりです、M氏は自転車で先に出発。私は一人
で後を追います。寒くて真っ暗で大きな氷柱がぶら下がった不気味なトンネルをいくつも通り抜けます。途
中、4〜5つの滝がありますがそれらも縁が凍っていました。工事車両が何台か通り、その一台が前方を
歩いている単独者を乗せてあげているのが見えます「私も乗せて〜〜」と叫びたかったけど遅かった・・・
それより何で私を通り越してあの人だけ?むごぉございませんか・・しかも彼はまだ若い・・・ブツブツブツ。
2時間ほど経ったところでM氏がザックを置いて戻ってきてくれました、少し自転車を借りて乗ってみます。
重いザックを担いでいるとこれが結構大変!標高が上がったせいか車道の縁までもが氷柱でいっぱいで
まるで冷凍庫の中にいるみたいでした(@_@) 

AM9:45 予定より少し早めに「歩き沢橋」に到着できました。それにしても寒い・・ジッとしていると体の
芯まで冷えてきます。さて、ここからが激登りの始まりです(>_<)(>_<)(>_<) 最初はそれほどでもないかな
と思いましたが、やはり激登り間違いなしでした。ザックを後ろから引っ張られているみたいです (^_^;)
風の少なそうな樹林帯で昼食にします、暖かいラーメンが美味しい。それから単独者一人を追い越しま
す、かなりお疲れの様子。ずーっと展望のない樹林帯だから余計に疲れるのかもしれません。

歩き沢の登山口から2時間ほど登ったところで真っ白に冠雪した山が見えます。鳳凰三山の方向、観音
岳や薬師岳でしょうか、秋にchakoちゃんと歩いた稜線です (^^♪ それからまたイヤになるほど展望の
ない樹林帯を行くとだんだんと雪が深くなり、いきなり平らな明るい場所に出ました、池山御池小屋です。
PM1:30 池は雪に埋もれ純白、そしてblue sky ♪素晴らしい!!おも〜いザックを下ろし,暖かい紅茶
を飲んで一休みします。小屋の中は真っ暗で単独者がテントを張って休んでいました、先ほど追い越した
人も到着したようで、今夜はここでテン泊のようです。私達は少しでも標高を稼いでおきたいので頑張っ
て先に進むことにします。標高2300m付近まで行ったところで、平らな場所を選びテントを設営。中に倒
れ込むといきなり爆睡でした (^_^;) 夜ご飯はピリ辛鍋、体が温まって、また爆睡 (>_<) 

AM2:00 起床 テント内で靴を履き、念のためハーネスも付けて行くことに。3時過ぎにテントを出ると
ヘッドランプの灯りが一つ近づいてきます、昨日会った単独の人でした。「ここから先、トレースはあるの
か、道はわかりやすいか」とM氏に聞いている。トレースはないと答えるとかなりガッカリされた様子(^_^;)
M氏と私で交代しながらラッセルする、先ほどの男性は距離を置いて付いてくる。私達が立ち止まると彼
も立ち止まる。付かず離れず・・・といったところか。暗闇のラッセルは本当に辛い、辛いけど前に進むし
かないのです。あの単独者には会わなかったと思えば腹も立たない、これも生きる知恵 (^_^;) 
深いところでは腰までもあるラッセルが4時間ほど続いたころ、森林限界付近に出ました。「後ろ!」と
いう声で振り返ると \(^o^)/ヤッター御来光で〜す。 全てが帳消しになる瞬間でした。

厳しいラッセルのご褒美は、こんなに素晴らしい富士山。

森林限界でラッセルから解放されますが今度は風が強い!ザックから暖かいものでも出そうとすると何
もかもが飛ばされそう(>_<) ボーコン沢の頭に出ると目の前にドッカ〜ンと北岳の雄姿が\(^o^)/
振り向けば穏やかで美しい富士がずっと見守ってくれています。

左には間ノ岳〜農鳥岳が見えます、あの稜線の風は半端じゃないでしょう。画像で伝わるでしょうか?私
たちも強風に耐えながら八本歯の頭へ向かいます。アイゼンをガシガシ効かせながら一歩一歩進むと、
確実に北岳が近づいてきます。北岳バットレス第4尾根にキラリと光るものが見えます、誰か張り付いて
いるのだと。こんな厳冬期に、世の中には凄い人がいるものです (>_<)

恐ろしいくらい美しい・・・

八本歯の頭から八本歯のコルへの通過は緊張のあまり写真を撮るのも忘れていました、たぶんギザギ
ザの歯が8本あったのでしょう(^^ゞ 踏み跡もなくかなり緊張を強いられる微妙な雪の付き具合でした。
スタカット(隔時登高:ロープでつながり一人が歩いている時は一人がビレイして待っている登り方)で。
先を行くM氏の登攀を必死で確認しながら神経を集中させ、自分も同じように動かなくてはなりません。
そして時々、もしここであぁなったら、こうしなければ・・と沢山の事を考えていました(^_^;)(>_<)  そのせ
いか八本歯のコルの通過は時間が短く感じました。いつも思うのですが、冷静さと正確さを必要とされる
緊張感と凛とした空気が好きです。

八本歯の頭から八本歯のコルを通過してから写真を撮りました。
私達の足跡が残っています。

今から思うと八本歯のコルは風もあまりなかったようです、しかし稜線に出たとたん、ドッヒャ〜と吹き飛
ばされそうな突風でした。立っているのも大変な状況で少し後退して休憩しながら様子を見ることに(^_^;)
しばらくして少し風が弱まったのを見計らって山頂を目指します。見上げるともの凄い傾斜です、登れば
登るほど風も半端じゃありません。一歩間違えたら・・・なんて考える暇もありませんでした。やっとの思
いで山頂に立った時は涙も鼻水も凍りそうでした。写真だけ撮ってもらい、早々に下山開始。PM1:20
途中から登山道とは反対方向へ下り、トラバースして稜線に降りました。雪崩の心配はない雪質だった
のが幸いしました。こういう判断も長年の経験なのでしょう。これもまたあとから思えば・・なのですが、山
頂の登りと下りが本日最大の恐怖でした(^_^;) しかしここが一番勉強になった箇所でもあります。

マウスを置いてね

マウスを置いてね

マウスを置いてね

無我夢中で山頂から稜線に戻り、少し下でしゃがみこんで休憩しました。この時は「感謝」という言葉しか
頭に思い浮かびませんでした。そこへ単独の若い男性が来て今朝のラッセルのお礼を言ってくれました。
農鳥岳まで縦走を狙っているということで「稜線の風はどうだったか」と。「かなり厳しい」と伝えると悩んで
いる様子でした。しばらくして登り始めましたが、稜線に出た途端、突風に吹き飛ばされたようで再び降り
てきました。分岐まで下りトラバースして間ノ岳へ向かうことにすると話してくれました。とっても清々しい好
青年だったので「昨日工事車両に乗せてもらったでしょ?」と言いたいのをグッと我慢したのでした(^^ゞ

颯爽と下ってゆく青年の後姿と山頂からの間ノ岳〜農鳥岳方面

八本歯のコルで7〜8名とすれ違いました、お陰で朝とは違って快適な登山道が出来上がっていました。
ボーコン沢の頭の少し下で幕営する人に「山頂まで行ってきたのですか?」と聞かれたので手を上げると
「ヒャホッ〜〜」と喜んでくれました、ありがとう〜\(^o^)/ 若い人は元気だ。

このあと、幕営地点まで急いで下りました。テントまであと少しの所で急に気分が悪くなり、何度か吐きま
した、この日は夕食も食べずにただひたすら眠ることに。しかし夜中に何度か指先の痛みと吐き気で目
が覚めてしまいます。。翌日はAM2:00起床。食欲はなく栄養補助食品のゼリーを押し込みます。凍り
ついたテントを撤収 AM4:00下山開始。パッキングをしているM氏より先に出発します。ヘッドランプの
灯りを頼りに一人で黙々と雪の道を下りました。今回2度目の恐怖です、暗闇は怖いや・・(^_^;) 
池山御池小屋を過ぎ、しばらく下った辺りでM氏が追いついてきました。私は相変わらず気分が悪く、何
度もザックを下ろして吐きました。歩き沢の登山口に下りても回復することはなく、まだまだ車道が長いの
で不安でした。M氏に少し荷物を持ってもらって、また黙々と車道を歩きます。ふらふらでゲートまで戻り
車中で暖まるとホッとしました。途中温泉に入り、体が温まると体調は回復♪ でも指先は灰紫紅色・・?
自宅に戻りいろいろ調べましたが、どうやら凍傷のようです。数件の病院を回り、現在治療中 (^_^;)
やはり厳冬期の北岳は甘くない!!恐るべし・・でした。
でもやっぱり感動は忘れません、素晴らしい山でした。今も思い出すだけで涙が出ます。ありがとう〜〜
感謝です \(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/